記念講演
Rogers賞記念講演 ①
2025年 8月30日(土) 10:40 ~ 11:40
人間性心理学が必要とされる、ということについての一省察
―ある30代カウンセラーの場合―
愛知淑徳大学学生相談室
新村信貴 先生
私は自身にロジャース賞受賞が相応しいだけの業績があるとは、当然思っておりません。ですが、人間性心理学の実践・研究・継承の道から逃げない為の戒めにできればと思い、恐れ多くも賞を賜りました。このような私ですが、人間性心理学の人間観、価値観、理論、方法論、実践、コミュニュティ、風土、雰囲気、文化に救われ、支えられ、守られ、生かされている一人の当事者であるという点には確信があります。私は極端な例かもしれませんが、皆様も程度の差はあれ、人間性心理学に何らかの関心を持っている、という側面があると思います。人間性心理学の意義を考えるうえでは、実践の対象者・研究の協力者の立場に立つことは勿論ですが、同じ現代社会を生きている私たち自身が、何故人間性心理学に関心を持つのか、と自身を内的に振り返る作業にもまた、意味があるのではないでしょうか。人間性心理学には、「もっとも重要なことは人間の直接的経験」である、とする(Korchin,1976/1980)伝統もあります。
以上より本発表ではまず、人間性心理学が必要とされるということはどの様なことか?という点に関しての、私個人の個性記述的な資料と省察の提示を試みます。また同時に、主体者が事実を事実として伝えるのみではなく、物語として、事実に伴う内的体験を重視し、伝えるとき、「受手の内部にあらたな物語を呼び起こす動機(ムーヴ)」が伝わる、そしてこうした研究発表の在りようは心理療法の事例研究をこえて、広い学問の範囲で役立つ可能性がある(河合,1992/2009)という点を大切にさせていただきたいと思います。従って、自己中心的な「自分語り」ですが、皆様に受容的・共感的に聞いていただきたい、というよりもむしろ、これを触媒とし、「私だったらどんな講演をするだろうか」「私にとって人間性心理学って何だろうか」と、人間性心理学とご自身を振り返っていただく機会にしていただければ幸いです。そして、私の話す時間が大半になるかと思いますが、何かアイデアが浮かぶような方がいらっしゃれば、ぜひご教示いただければと願っております。
講師紹介

新村信貴
愛知淑徳大学学生相談室
プロフィール
紆余曲折を経て、九州大学大学院 人間環境学府 博士後期課程 単位修得退学。修士(心理学)。愛知淑徳大学 学生相談室 助教。公認心理師・臨床心理士。夏のお盆休みに、家族・親子が集まるエンカウンター・グループ「ファミリー・グループ」の実践と研究を続けています。
主要論文・書籍
新村信貴・古賀なな子(2024):ファミリー・グループにおける経年参加児の体験とその内在的な仕組みに関する一考察―日常の支えに焦点を当てて― 九州大学総合臨床心理研究 15, 49-55.
新村信貴(2023):心理臨床における治療者の因果的思考と非因果的連関に関する事例研究 ―表情カードを自らのものにしていった未就学児との遊戯療法過程から― 九州大学総合臨床心理研究 14, 77-83.
新村信貴(2021):ファミリー・グループの臨床心理学的理解のための基礎的考察 九州大学総合臨床心理研究13, 113-119.